静岡県は、お茶やわさび゙など全国に誇る特産農産物が多いが、えだまめも全国第9位の生産を誇る本県の特産物である。
静岡県のえだまめの約半分は清水市、静岡市で生産されている。なかでも、三保のえだまめは、温室で作られ、早春から出荷が始まり、5月から6月に出荷のピークを迎え、東京や大阪に送られて、高値で取り引きされている。
えだまめは、大豆の未成熟な実を茹でで食べるものである。大豆は畑の肉といわれるくらい栄養価が高い。えだまめ100グラムの中には、蛋白質11%を含み、卵の12%にせまるものがあるほか、脂肪6%、ビタミンも豊富で、ビタミンB1、B2、Cを含む。
また、アルコールの酸化を防ぎ、肝臓の負担を和らげる機能を持っている。ビールのつまみとして、食べられている科学的な理由がある。
さて、大豆は、えだまめとして直接食べるほか、煮豆、豆腐、納豆、もやし、味噌や醤油の原料としてなくてはならない作物である。
大豆の原種は、中国西部、朝鮮、シベリア、日本に野生するツルマメ(ノマメ)といわれる。ツルマメは古代から食料に利用されてきたが、大豆として作物化されたのは、旧満州、シベリア、アムール川流域であったといわれている。
栽培は4〜5千年前にはすでに行われ、2千年以上前に、中国東北部では重要な作物となっていた。我が国に、中国から大豆の伝わったのも古く、縄文時代から弥生時代の初期に稲とともに中国から伝わったといわれている。その頃は、煮豆や煎り豆にして食べていた。醤油や味噌の原形である醤(ひしお)として加工して利用されるようになったのは奈良時代に入ってからだ。未熟な大豆をえだまめとして食べるようになったのは平安時代に入ってからだといわれている。ただ、塩茹でして今のように食べていたかどうかは文献だけでははっきりしない。今風に食べるようになったことがはっきり記録されているのは江戸時代だ。
大豆が欧米に知られたのは、17世紀の終わりから18世紀のはじめにかけてである。大豆を世界に広く紹介したのは日本だ。アメリカにはヨーロッパからも伝えられたが、黒船のペリー提督も1854年、日本から持ち帰ったのは有名な話だ。米農務省で大豆の試作が始められたのは1896年である。今からたった100年ほど前のことである。大豆は英語でソイビーン(soybean)という。ソイは醤油のことで、大豆が醤油の原料であることが欧米でもよく知られていたことからこの名がついたと言われている。アメリカが世界最大の大豆の輸出国で、日本が最大の輸入国であることは、何か皮肉を聞いているような感じを受ける。
戦前、大豆の世界最大の生産国は中国であった。戦後はアメリカが中国に替った。アメリカの生産は20世紀に入ってから急増し、1960年頃には、栽培面積が1000万ヘクタールを超えて中国を抜き、1970年代には2000万ヘクタール、現在では世界第一2800万ヘクタール、7400万トンを生産している。日本の田と畑の総面積が約500万ヘクタールであるから、アメリカの大豆の栽培面積のすごさが分かるというものだ。世界全体の現在の大豆の栽培面積は約6800万ヘクタール、生産量は1億5千万トンである。アメリカは栽培面積で40%、生産量で50%を占めている。
えだまめに戻る前にもう少し大豆の話を続けよう。
アメリカに次いで生産の多い国は、ブラジル2700万トン、アルゼンチン1500万トン、中国1400万トン、インド500万トン、5大生産国で全世界の9割を生産している。
日本は、、大正年代までは50万ヘクタール、約50万トンの生産があったが、戦後は急激に減少、1960年頃には30万ヘクタール、約40万トン、1977年には8万ヘクタール、11万トンまで落ち込んだ。その後徐々に増加に転じ、1987年には17万ヘクタール29万トン程度まで増加したが、また、減少し、1994年には6100ヘクタール10万トンまで減少、現在では8万ヘクタール、15万トン程度が生産されている。本県の1996年における大豆栽培面積は381ヘクタール、生産量は158トンである。なお、本県のえだまめの栽培面積は451ヘクタールで大豆栽培面積より多く、生産量も2,740トンである。
話をえだまめに戻そう。
えだまめが、農水省の統計で、大豆とは別に掲載されるようになったのは、昭和16年からだ。当時は、えだまめを「未成熟ダイズ」として載せていたが、昭和46年からは正式に「えだまめ」として掲載されるようになった。
えだまめの栽培面積は、1975年頃に1万ヘクタールを超え、1980年頃には1万4千ヘクタールとなった。大豆は年間500万トン近くも輸入し、国内生産は大豆全消費量の3%に満たないが、えだまめとなると別で、国内生産量約8万トン、輸入量は約6万トンで、国内生産額約300億円、輸入金額130億円で、国内生産の方が量的にも、価格的にも優勢の状況にある。
そうは言っても、はやり価格の安い輸入物は脅威である。輸入えだまめは主に冷凍した状態で日本に入ってくる。冷凍、輸送、保存技術が進歩すると、冷凍えだまめといっても馬鹿にできない食感を持つようになる。私たちが好きな一杯飲み屋や安いビアレストランのえだまめがほとんどが冷凍えだまめだといわれている。年間を通してビールが飲まれ、えだまめがビールの友として食べられる。高級料理店用に高価なえだまめを作っている産地は、マーケティングをし直す必要が有りそうだ。
えだまめはネット袋に詰めて売られていることが多いが、枝付き葉つきで売られることもある。枝や葉はごみになるだけで利用価値がないと思われていたが、えだまめの鮮度を保つ重要な役割があることが最近わかった。葉、枝、根の付いたものは、うまみに関係する糖やアミノ酸の減少が少なく、収穫後2日くらいはほとんど収穫時と同じ程度に保たれることが確かめられた。
えだまめを選らぶポイントは、さやがふくらんで豆が大きく、さやの緑の深いもの、枝つきのものでは、さやが密生していて、葉や茎の鮮度の良いものが良い。黄ばんだものは熟しすぎていて、実が大きくても硬く粉質でおいしくない。
えだまめは鮮度が落ちやすい作物だ。ポリエチレンの袋に入れて冷蔵庫で保存すればある程度鮮度の落ちが抑えられ得るが、買ってきたらすぐに塩茹でし、食べてしまうのが一番。たくさん手に入れたときは茹でてから急速冷凍しておくとよい。
えだまめには、アルコールが原因となる肝臓の負担を和らげる機能を持っている。暑い日ビールをたくさん飲みたいときには、えだまめをつまみとして食べるようにしよう。
(参考文献)
野菜学入門:相馬暁、三一書房、1996.7.31発行
日本の野菜:青葉高著、八坂書房、1993.12.5
野菜・山菜博物辞典:草川俊著、東京常出版、1992.9.21
日本の野菜:大久保増太郎著、中公新書、1995.8.25
(農の風景32号1998年7月)