トゥーランガリラ交響曲
Turangalila-Symphonie



 連日の猛暑で暇をもてあましていることもあって、先日、メシアン作曲の《トゥーランガリラ交響曲》を聴いたついでに、この曲にまつわる僕個人的エピソードなど、一応僕なりに整理し書き記してみたいと思う。

 この曲を知らない人に聴かせたらおそらくシリメツレツ千万で、お気の毒さまこの上ないだろう。しかもこんなにわけのわからない曲もないものだ。そう言えるのも、実際、自分もかつてそんな目に遭っていたのだから。
 この曲自体ほんとうに珍しく、きっと特定のマニアックな方以外にまだあまり知られていないと思うし、実は、僕自身も全然詳しいわけじゃない。先行きどうなるのかまったく予想がつかないもので、たとえどんなにシリメツレツだったにしても、すごい好きな曲になってしまったことに変わりはなく、むしろ、ありがたいと思わなければなるまい。

 美専を卒業して半年が過ぎた頃、静岡に越して来る直前のちょうどあわただしい時期だった。
 《トゥーランガリラ交響曲》が目的で聴いたのかどうかは覚えてない。ただ、FMラジオでクラシックの特集番組なるものをやっていて、その時、映画監督の篠田正浩氏がDJを担当されていたわけだが、クラシックにまつわるたいへん興味深いお話と、独特のしゃべり口調がまたなんとも魅力的で、毎回聞き惚れ、癒されていた。カセットテープにわずかながらだが、録った。

 『・・・戒律とはまったく無縁の、文字どおり、官能の渦でございます。演奏は、小澤征爾指揮トロント交響楽団です。・・え、長大なこの曲の中から、第2楽章《愛の歌》を・・お聞かせします。』

といった具合に、何度聴いても本当に懐かしい限りのテープなのだが、当初、いったいどんな音が飛び出してくるのだろう?と思い、ワクワクしながら机のイスに腰かけ聴いていると、ラジカセからなにやら、「猿の惑星」まがいの妙な音楽が流れてきたので、ギョッ!とした。
 これってもしや、古典、ロマン派を超えた、いわば抽象音楽!? 絵画でいうと、抽象画家カンディンスキー、といったところか。
 はじめて聴いたときは、それはもー、シッチャカメッチャカで、なんじゃこの曲は?くらいの調子でさげすんでいたはずが、何度も繰り返し聴いているうちになぜかだんだんヤミツキになってきて、それがいつしか、いわずと知れた名曲の《春の祭典》、《惑星》などとともに、僕にとって絶対に欠かせない大切な曲となってしまう。
 おそらく、工場の写真を撮ってきてそいつを眺めながら聴いていたせいだろう。特に、第2楽章《愛の歌》を聴くと、決まって、海沿いを背にした大昭和製紙富士工場のあのガチャガチャ混み入った景色を思い浮かべてつい嬉しくなってしまうのだが、ともかくも、僕には、工場と切っても切れない不思議千万な音楽だったりもする。いや、もしかするとこの曲、音楽じゃないのかもしれない。

 あとで教科書を見て驚いたのだが、このシッチャカメッチャカな曲が、なんと、意外にも音楽の教材にももれなく載せられていた!! 
 そんなこんなでいろんな演奏に接し、十分聴き込んできた今となっては、シッチャカメッチャカどころか、こんなにずば抜けてすぐれた曲もほかにないものだと思うし、やっぱ教材にも載るくらいだし、なんといっても僕自身ヤミツキになってしまうくらいだから、有名になって当然といえ、今さらだが、オオヤケにももっともっと知られていい素晴らしい名曲なのではないかと僕は考える。

 しばらくして、エサ=ペッカ・サロネン指揮/フィルハーモニア管の演奏だったが、途中で若干途切れながらも全曲エアチェックを試み、かろうじて成功した。
 全曲聴いて感じたのは、楽器を奏でるというより、音を、あたり構わずぶっちらかしてるとでも言ったらいいのだろうか、かつてのオザワの演奏が明るく歯切れ良くキレイにまとまっていたのに対し、こちらは、わりあいゆっくりとしたテンポで、ちょっと乱暴な言い方だが、自由奔放で、演奏自体これこそまさにシッチャカメッチャカと呼ぶにふさわしく、もー、どーにでもなれ!路線。音色からしてオザワの演奏とはまるっきり正反対と思えるくらい、とにかく宇宙規模を連想させるもので、打楽器群の音が自由に宇宙を飛び交っている印象を受けた。これはこれでまたたいへんおもしろく、魅力あふれる演奏には違いないのだが、僕的には、第2楽章《愛の歌》に限って思い入れのそうとう強い、やっぱどうしてもオザワかな、といったところ。

 そんなわけでその後、レコードの時代も終わる頃、小澤征爾指揮トロント響のレコードが欲しくなって、せっせと店に注文しまくったまではいいのだが、なんと案の定、廃盤になってしまったらしく、入手不能に・・・。
 そして皮肉にも、忘れたころにFMラジオで聴くことができ、どうにかエアチェック。
 そして、またまた忘れたころにCDめが出てきやがったが、当然買う必要もなくなったというもの。CDめ、恨むぞ、まったくもー! 忘れたころに出てきやがってからにしてからにしてからにして・・・。

 それはそうと最近になって、わりと評判のいいチョン・ミョンフン指揮/バスティーユ管の演奏でもラジオで聴いたが、評判いいなんて、耳を疑うくらいこもっていてどうにもスッキリしなかった。
 しかし、CDだとどんな音がするのやら?もっといい音がするのやら??ちょっと聴いてみたい気もするが、実際買って聴いてみないことには何も言えないし、チョン・ミョンフンもわりと好きな指揮者なのだが、いずれにしても僕の好みではなさそうだ。

 また、いつ頃の放送だったのかも、オケ名すらも忘れてしまったが、サイモン・ラトルの演奏も、オザワ寄りの非常に活発に明るく前に出る表現で、確かに理想的名演だったのを覚えている。

 そして、CDとしてようやく入手に漕ぎつけたのが、ケント・ナガノ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏だ。ベルリン・フィルもこういう類の曲にはうってつけらしい。第2楽章での、オンド・マルトノの小さく聴こえづらい音がいささか気にはなるものの、全体的にテンポも速く、リズム感の良さとか、打楽器群が明るくグングン前に出るところなどオザワの演奏ともよく似ており、とても気に入っている。よって、近頃はこれで時々聴いている。(2013/08/24)





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