マタチッチの「ブラいち」



 僕自身から見たクラシック音楽を、今回もまた嘘いつわりなくありのままに綴ってみたいと思う。
あまりに聴きすぎて聴き飽きてしまったともいえそうなこの「ブラいち」ことブラームスの交響曲第1番。かのベートーヴェンの交響曲と同じくらいかなりよく聴いた。今もそれほど頻繁ではないがたまに取り出して聴いているし、好きな曲に変わりはない。
 ベートーヴェンの第10交響曲とも言われた。そういえばよく似ている。話は若干それるが、この神話めいた曲、第10番シンフォニー。復元盤として店頭にも出回ってたいへん話題にもなった。聴いた方もおられると思う。だけど、評判は今ひとつのようだった。「スケッチをもとに第1楽章と称してクーパーが無理やり完成させた」とクラシック書には書いてある。僕もウィン・モリス盤が発売されるとまもなく入手し聴いてみたけど、クラシックにしてはやけに斬新なイメージのCDで、旋律が今でも強烈に耳に残っているし、僕はそんなにわるくないと思う。ただ声を大にして言いたいのだが、だいたい終わりの終結部、ベートーヴェンらしくない! まるでスメタナだ。本当にベートーヴェンが書いたスケッチだったのかどうか疑わしいところだけど、そこだけなんとかもっとベートーヴェン風にビシッと決めてさえもらえれば天下の名曲ともなり得たと思われるのだが、いかがなものか。
 余談はさておき、このブラームスの交響曲第1番をはじめて耳にしたのはクラシック音楽に目覚めてまだ日も浅い頃。失礼とは思うが、名前も顔もすこぶるおもしろい方で超女好きとしても有名なロブロ・フォン・マタチッチ氏が、NHK交響楽団を振っての演奏で知った。テレビでも放映された。しかしながらまぁなんと、なりふりこっけいなこのじい様、手を支えてもらいながらよたよた指揮台に登場してきたよ・・・。そんなのでほんとに指揮できるの? って、はじめどうなることかと心配したものだが、さすがにそこは大指揮者。タクトを持たぬ手刀のような指揮ぶりで観客を魅了した。・・・のだろう、きっと。実演はどんなにか凄かったことでしょうなぁ! そんなこんなで僕も感心しながらテレビに見入っていた。
 そしてFMラジオでも放送されたこのマタチッチ指揮の「ブラいち」。たぶんこれが始まりだったと思う。ステレオ不調のためやむなくラジカセでエアチェックしたが、演奏が途中で切れたり、音質が断然悪かったり、と。でもいっこうに気にせず盛んに聴いた。
 ステレオカセット回復ののちには、まず、クラシック書でも評判のいいシャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のものをエアチェック。前へ前へと突き進むような豪快な演奏が凄かった。そしてただ何気なくだが、ガリー・ベルティーニ指揮ケルン放送交響楽団のものをエアチェック。比較的ゆったりと落ち着いたサウンドが特徴。またCDではシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のものを入手。こちらは例によりわりと速いテンポではつらつとした演奏が聴けた。ビデオにも、ブロムシュテット、オザワ、マタチッチ、C・デイヴィス、べーム、とさまざまな指揮者によるさまざまな演奏をバカみたいにたくさん録画した。
 ひとくちにクラシックといっても僕の場合、曲そのものより指揮者自体に興味が集中していたため、自然に同じ曲だけどんどん増えていく。無理もない話。これがよく集まるのだよ。ただのクラシックファンなのに、ここまで突っ込んで書いてしまうとよもや自分も世間からオタク呼ばわりされるのでは!?そんな予感さえ漂う・・・。
 それはそうと、ある時、十束尚宏指揮東京フィルハーモニー交響楽団の演奏であったが、実演も聴きに行った。音のかたまりがドドーン!と迫ってくるといった感じ。十束尚宏の元気のいい指揮により、オーケストラから割れんばかりの大音量を引き出していた。楽団からの距離が近かったせいもあり、前記のベルリン・シュターツカペレと違ってとにかくうるさかった。室内ではとてもとても再現できるような音ではないとその場で確信した。でも数日後、嬉しくもちょうどよく同演奏のライヴがFMラジオでもオンエアされ、ブラームスではなく同曲と抱き合わせのベートーヴェンの「フィデリオ序曲」という曲ではあったがエアチェックし、自分の所有しているオーディオをフルに発揮させるべく、どうにかナマの音に近づけることができたのだった。
 膨大なCDが氾濫しているなかで全部聴いてみないと専門家でない以上どうにも評価の下しようがないが、総合的に見てやはりマタチッチ盤がいちばん好きだ。何より懐かしく、力強いティンパニで始まり、いかにもブラームスといった感じがするからだ。思い入れもそうとう強く、「ブラいち」ときたら僕にはもうほとんどこの演奏しか考えられない。途中でちょっとしたミスがあるが、それすらもすでに曲の一部になってしまっている。違和感など全然ない。同じマタチッチ指揮N響のブルックナー交響曲第8番のCDと共に僕にとって欠かせない存在なのだ。
 また同じN響のブラームスでも、マタチッチとひと味違って、ブロムシュテットが振ると曲がスマートに聴こえてくるからおもしろい。それと曲作りがオーソドックスなのもたいへん興味深い。
 このマタチッチ指揮N響のCDを晴れて入手できたのは、高価で買えないなどモジモジしているなか、それからさらに時は過ぎ、当曲への関心もしだいに薄れ、遅まきながら、幸か不幸かジャンルがまったく別のジャズなるものへと関心が移ろい始めた、クラシック廉価盤としてようやく再発し出した頃のことであった。《2007・06・18》





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