装置産業と感性
久しぶりに福井にあるメガネのフレーム工場の見学に行ってきました。
工場といっても従業員が10数人の工場です。私のお店では戦前からのお付き合いをさせていただいています。
私が小学生のころは、福井からカバンを持ってセールスに来ていたこの工場の先代の社長さん(故人)は、来ると必ず私の家に泊まって仕事の話など夜遅くまで父と話をしておりました。父がいかに大事にしていた人か子供ではありましたが良くわかっていました。そして
よく可愛がっていただきました。
現在、私どもメガネの春田では一番重要な取引先で、クロバー製のメガネフレームは主力商品となっています。

この小さな会社が実は、今、日本の眼鏡産業の重心となっています。
ハンドメイドのメガネを造っている事や、皇室のメガネを手がけていることで、知る人ぞ知る(株)クロバー眼鏡さんです。
本当に久しぶりにクロバーさんの工場を見学させていただき、二代目の社長、弟の専務さんと親しくお話ができました。

福井では今、中国の安い労働力が生み出すメガネの攻勢にさらされていると思いましたが、そうではなくて、ベトナムで作られているメガネが価格支配しているとのことでした。
 機械をセットしさえすれば技術がなくても誰でも簡単に作れるメガネフレームが今は幅を利かせています。
こういうメガネの作り方は人の技術力は必要ありませんので、労働賃金の安いところにどんどん移って行きます。
昔は韓国、そして中国へ。今は中国の1/3の賃金のベトナムに工場を作っています。ベトナムの人のほうが器用らしいです。

こういう産業は装置産業といわれ、機械を据え付けるところさえあればどこでも良いのです。
福井から中国に進出したメガネ工場は数多くあります。今や従業員が3000人もの大規模なものになりました。大規模になればそれだけ
メガネを大量生産し、大量販売しなくてはなりません。勢い価格の安い商品を作らなければならなくなっています。
流行も早く、アセチのプラスティックフレームは、乾燥させないで作るので、直ぐに縮んだり変形してしまいます。
本来のプラスティックフレームは材料となるセル板を何ヶ月も掛けて乾燥させて作ります。そのことにより切断面と表面の
乾燥の度合いが近くなり、自然に曲がったり緩むことが少ないのです。安価なのはそこまで寝かして待てないのです。
材料が入荷したそばから作らないと資金が回りません。フレームの品質保持には悪循環になっています。
それでも、ベトナムを生産拠点にしたメガネ工場に価格はかなわなくなっており
いまや中国から撤退してきているところも数あるとのことでした。
中国等から輸入した部品を組み立てて「日本製」として売っているメガネメーカーもあります。
これでは消費者を欺いていることです。メーカーとしての倫理を疑います。

一方、日本のメガネフレームメーカーといわれる中で、メガネを一貫して作っているところは数社しかありません。
デザイナーブランドのメガネ、ハウスブランドのメガネ、ブティックメガネはメガネ工場で一貫してつくられていません。
デザイナーがデザインを書き、これを元に金型工場が金型を作り、部品工場で部品を作り、ロー付け工場でロー付け、
メッキ工場でメッキ、仕上がってきたものを袋詰めしているのが所謂メガネフレームメーカーとなっています。
ですからメーカーではメガネを作っていないのです。不思議な話です。
あえて言えば金型屋さんがメガネを作っているといえます。
メーカーと言われるところで金型を持っていなければ、追加生産や、修理や部品供給の対応はできません。
数年経っただけで修理が出来ないのはこのためでした。
金型工場では国産、韓国、アメリカなどありとあらゆるブランドのメガネの金型を作り型を抜き、プレスして基本形を作っています。
メガネメーカーという認識が変わりつつあります。
技術力のある金型工場は細かいデザインものが正確にできるので、デザイナ−ブランドのおしゃれな眼鏡の注文が集中し、
フル稼働しています。

装置産業に対抗して福井の眼鏡が生き残る道は何なのか。真剣に考えている人たちがいます。
装置産業のメガネメーカーにしても、基本は眼鏡職人さんの技術になります。それ以上のものはできません。
今、福井では眼鏡職人の技術に感性を加えて眼鏡を作ろうという考えになってきました。
あえて工場を大きくせず、職人の技術を磨いている小さなメーカーが今元気が良いのです。
メガネ職人の技をうたい文句にしたメガネが出てきたのはこの理由によります。
今回、工場見学に訪れた(株)クロバー眼鏡さんが正にこの道を歩いています。
今では数少ないメガネフレームの一貫生産をしている会社です。
メガネのネジ一本からハンドメイドです。ネジが抜けるとか、緩むことが殆どありません。
1/100ミリの精度で作っています。
他メーカーが経費の削減のために力を入れない所に、あえてこだわりを持って一つ一つ仕上げていきます。
クロバーさんの眼鏡は丈夫で、40年も持ちます。金型も自社生産なので年数が経った商品も作れるのです。
部品も全て手造りですから、古くてもう部品が無い、ということは無いのです。
フレームの表面仕上は特殊な研磨剤(ドイツ製)で凹凸が出ないように鏡面仕上をあえて職人さんが手で磨きます。
普通の磨きは手でなくて磨き材を入れた回転箱で磨きますので全く仕上がりが違います。
最終のメッキ仕上の強度がここで決まってきます。
このこだわりと技術、完成度の高さが今、高く評価されています。

クロバー眼鏡の社長曰く、メガネの小売店を訪問するときは、お客を見ないで、お店の人の接客を見ているそうです。
お店の中で誰が一番の売り上げがあるのか直ぐわかるそうです。
完成した眼鏡をお客様の顔にフィッティングする技術は簡単なようで、非常に難しいものです。
眼鏡を一度掛けた状態を見て、指先の感覚、耳の後の骨格の状態の把握をしてぴったり合うように調整します。
左右の耳の高さのちがい、左右の耳までの奥行きの違う人、細面、がっしりした顔つき、耳の後の骨が出ている人、顔のいびつな人、
硬めの調整が好きな人、ずらしてメガネを掛けたい人、・・・
レンズも遠視や近視、遠近両用、老眼鏡など使い道により調整をします。
この調整技術を持った人が一番の売り上げがあると、社長は見抜いています。

誰でもできることはすなわち装置産業に近い話ですね。ショッピングセンターや、ディスカウンターでは殆どがパートの人を使っています。価格競争にさらされ誰でも最低限の仕事ができるように教育されています。
しかし、私たち専門店はお客に対して最高の満足を売るサービス産業に近いところにあるのでは。
それが眼に見えない感性を売る、ということではないでしょうか。

(株)クロバー眼鏡さんを視察しての感想でした。
                                                                2004・6・9

クロバー・ハンドメイドのメガネのページにリンク

戻る